 |
 |
これを見て、あなたは何を感じただろうか?
ここには"SILENT HILL 3"と書かれている。言うまでもないことだ。
でも、何かおかしい……と感じたら、それは相当の観察眼の持ち主だろう。あるいは相当のサイレントヒルマニアか。
実はこれはタイトルロゴの没稿(試作稿)である。
タイトルロゴは名刺のようなものである。
これは"SILENT HILL 3"というゲームです、と名前を提示し、そして同時に、その内にゲームの持つイメージを伝えなければいけない。ウェブページ、雑誌記事、パッケージ、ポスター……その全て記載され、ユーザーの目に触れる、注目されることは少ないが、極めて重要な存在である。
もし、これがこんな感じだと……
|
 |
……カッコ良く、さわやかである。
このタイトルロゴだと、とても恐怖を題材にしたゲームには思えない。
それもそのはずで、わかる人にはわかると思うが、これは血と悲鳴のゲームではなく、汗と歓声のゲーム、"Winning Eleven 6"のロゴを真似たものである。デザイン担当者が同じなので、真似というのは適当な言い方ではないかもしれないが。
ヘザーだったら、右手にはボールではなくて、鉄パイプだろうか?
|
 |
これは"SILENT HILL"のタイトルロゴ。これが作られた時、"SILENT HILL"は誰にも知られていなかった。コナミ初のホラーゲーム、その肩書きはあったけれど注目されるわけでもなく 。
そういえば、一番最初の発表は1998年のE3で……日本の雑誌社は全然、記事にしてくれなかったなぁ……。
|
 |
2作目。続編だから、前と同じイメージのロゴにする選択もあったが、同じSILENT HILLでありながら、前とは違うものを目指した"SILENT HILL 2"ということで、イメージを変えた。
『静かに、そして確実に染み込んでくる恐怖』、それを語るのに作られたロゴ……蜘蛛の糸、あるいは粘液に絡み取られた文字。
|
 |
そして"SILENT HILL 3"に。
といっても、現在のような形がすぐに出来たわけではない。
幾案も作成し、何度も検討した結果である。
これは最初の最初に作られたロゴ。"SILENT HILL 2"と同じイメージで作られている。
しかし、"SILENT HILL 3"は、1から2で変わったように、2から3もまた、新しいものを目指して作られている。
だから、タイトルロゴも、もっと新しいものを目指して、これは没になった。
|
 |
 |
少しずつ、変遷していく。
ただ、斬新なだけなら難しくはない。
新しく変わりつつ、雰囲気は残さなくてはいけないから難しい。
|
 |
明朝体系の細く、飾りつきのタイトルロゴ。1、2がゴシック系だから、以前の印象を断ち切り、別の方向性で、という考えでデザインされたもの。
雰囲気は合っている。
インパクトの弱さ、そして読みにくさが難点である。
タイトルロゴは、その『タイトル』を伝えるものだから、インパクトと読みやすさは必須である。
って、文章で書けば当たり前の簡単なことのようだけど、その当たり前が難しい。
そのために、何十という案が作られた。ここに掲載されているのは、その中のほんの一部である。考えたけれど作らなかったものは、きっと何百という単位だと思う。
|
 |
これは現在のロゴの前身。
横に流れる線にその名残を感じられる。
明朝体系は印象は弱いけれど、その儚さ、不安定さはSILENT HILLに合うのではないか? そんな意見……あるいは迷いもあった。
そして、現在のロゴが出来上がる。
ここで、『ある日、○○を見て、インスピレーションを得、アイデアが生まれた。「そうだ! これだ!!」』なんてことがあれば、ドラマチックな話としてオチをつけられるのだけど、流石にそれはない。
ただ、繰り返された試行錯誤の結果である。
鮮烈で、深く強い恐怖の世界を描いた"SILENT HILL 3"のタイトルロゴ。
完成したのは"SILENT HILL 3"が発表されたE3(2002.05.22-25)の直前である。
|
 |
(All Designed/Daisuke Nakayama, Text/Hiroyuki Owaku)
|