logo

3Dグラフィックス回りのプログラムはゲーム機の処理能力の大部分を消費してしまいます。デザイナー全員のポリゴンもテクスチャもモーションもそのプログラムを通してテレビ画面に表示されるわけで、とても責任重大です。私のところがネックになれば、デザイナー全員が作ったモデルのクォリティを台無しにしてしまいますし、処理を食いすぎればゲームとしては耐えがたい操作性、フレームレートになってしまいます。
通常、グラフィックスエンジンはタイトル固有の機能とかはなるべく入れてはいけないとされています。実際ゲームのほかのパート(デザインデータとかサウンドとか)に比較してプログラムは上手に作っておけば使いまわせる部分は多いのですが、どんな上手に使いまわせるように作っても、ゲームがたいしたことがなければ意味がないし、どんなハチャメチャなプログラムでもゲームとしてすばらしければいいと私は思っています。
技術者であると同時にクリエイターであるという自覚は大切であると。どんなゲーム機でもPCでもやはり限界はあるわけで、その限界の中でどんなことにこだわり、何を割り切るのか、どう非凡なありきたりでないものにするのか、そのあたりの感覚はもうこれは個人のセンスとしか言いようがありません。

前作サイレントヒル2では光と影の表現をどれくらいできるかを追求しましたし、リアルで写実的、現実的な表現にPS2の能力を発揮するように心がけたつもりでした。その甲斐あって発売当時のレベルとしては結構なレベルではありました。が、グラフィックエンジンとしてサイレントヒルシリーズが持つ独特な恐怖、狂気というものの体現するような特徴的なものには至っていませんでした。
本来グラフィックエンジンがそのようなものを体現する必要はないのですが、せっかく汎用のありきたりではない専用のグラフィックスエンジンわざわざ作って使用している以上、それぐらいはやるべきであったはず……

そして今作サイレントヒル3。前作の私の立場としての反省点として、独特の恐怖、狂気を演出するためにプログラムサイドとして出来ることは何なのか? デザインサイドの独自の世界観と調和しつつも、さらに自分しか出来ない独自性とはなんなのか? 続編であるがゆえに要求されるであろう前作を超えるものとはなんなのか?

いろいろと反省し、考え、大量にテストもおこないました。反省点を踏まえながら、前作からあった機能が改良修正されてパワーアップした点は多数あります。
気が付いている人もいると思いますが、E3トレイラー時点で、実はSH2からのパワーアップされていた部分はまだまだ少なくあまりSH2と変わりありませんでした。ちょうどそのときにSH3はこういう方向でいこうと、そのためにグラフィックスエンジンを大幅に改造しようと決心する直前で、間に合わせることが出来ませんでした。
TGSトレイラーの時では、SH2にあった部分の大幅改良はほぼ終了していました。その時点でもSH3独自の物を体現する、というところに関してはいまだ発表できるような完成度ではなかったのですが、ようやっとSH1、SH2には存在しない、SH3独自の恐怖、狂気を体現するようなグラフィックスエンジンとしてどうにか仕上げることができました。プレイしていただければそれが何であるか否応なしに目の当たりにすることになるでしょう。

(Norihito Hatakeda)

©1999 2003 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.