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サイレントヒル4
サイレントヒル4 制作者の声
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 デザインのコンセプトを考え出すために理解するべき2つの点がありました。1つは「キラーが造り出そうとしている世界」、そしてもう1つが「現実世界(私達の生活している日常)」です。 この2つの世界を構築していくことが「THE ROOM」のデザインコンセプトを明確にしました。

『キラーが造り出そうとしている世界』
 キラーの視点に立って見るとキラーの世界は私達の住んでいる現実世界よりももっとリアリティーをもった世界に違いないでしょう。幼少を過ごした湖畔の孤児院「希望の家」。母親を求め彷徨ったアパートとその周辺、建物や地下鉄など。キラーにとって意識や記憶は線として繋がっているのではなく、多様で曖昧な意識や記憶の断片が形となり無作為に積み上げられたような物を想像しました。そして今だ未完成で不安定な世界を仮定しました。私達の日々の生活で何の脈絡もなくフラッシュバックする記憶、そういった断片で構成されているものだと。
 深層部は揺るぎなく断片に被われていて容易に近付けないような構造で、表面は未成熟で曖昧なもの。そしてその記憶の断片を呼び覚ます潜在的な何かが深層部に眠っているといった設定にしました。 そして最終的にキラーは1つの卵状の固まりを作ろうとした、そして何かを生ませようとしていたのではないかと。

『現実世界(私達の生活している日常)』
 ホラーを成立させるために非常に重要なファクターは現実感、リアリティだと思いますが。「THE ROOM」では更に踏み込んで「日常」をテーマにしました。日常感を引き出す為に『部屋』を選んだと言っても過言ではないでしょう。窓から見える風景、行き交う車、人、夕暮れに点り始める街灯、覗き窓越しに見えるアパート住人の会話など。こう言った要素をリアルタイムで組み込むことで日常感を演出しました。私にとってそういった環境作りにもゲームをデザインすることの醍醐味というか、可能性を感じます。絵が美しいだけでは伝わらない「日常感」みたいな。窓の外の日常風景と異常な部屋は日常と非日常を同じ空間に存在させる事を可能にさせました。この点にも非常に可能性を感じました。

『クリーチャー』
 ゲーム的には敵ですが、私の中では曖昧な意識や記憶が形になろうとした時にできるゴミ(肉片のような物)が、存在した環境で進化したと考えています。粘土の固まりがあって、それでお城を作ったとします。その時の余った粘土の固まりがクリーチャーです。クリーチャーはキラーの造り出した環境にそぐった生態型を持つ生物で、主人公に悪意を持った存在ではありません。クリーチャーには性別や知恵、繁殖能力があります。それはビジュアルよりも存在にリアリティーを持たせる為の演出でもありました。

『ゴースト』
 異世界を彷徨う被害者は「死」を奪われ永遠の苦痛を強いられる。日本古来の地獄図ではあの強烈なビジュアルに注目してしまいがちですが、あれだけの苦痛を受けても死ねないところに真の恐怖を感じます。ゴーストにとって異世界はまさに地獄、恐怖だったのでしょう。異世界から出たいという思いが命在る主人公を襲う行為に向わせたのでしょう。「帰服の剣」*を同体に突き刺され無力にもがく様子は死なないゴーストならではの演出でした。

『THE ROOM』
 日常と非日常のバランスと関係性こそがホラーで、それが物語りを生み出すようです。「THE ROOM」ではどんな物語りが生まれるのでしょうか。
普段、私達は自分の意識の深層部にさえふれること無く生活していますが、私達はこの「THE ROOM」で他人(キラー)の深層部をも垣間見る事になります。顔面を黒く塗られた父親たち、親を呼ぶ子供の声、赤くただれたアパートの壁、感情(罪悪感)が具現化したクリーチャー、そして302号室など。主人公はある一点に向わなければなりません。深層部へ、そして物語の最後へ。そしてこの旅が終わる時、物語りに写し出された自分に気付くでしょう。


 今回プロモーション用のムービーの素材やE3用のムービー制作もせていただきました。あえてゲームでは出せないリアリティと恐怖をテーマに制作してみました。現実みを感じさせる手ぶれ、自己視点などのカメラアングル、カット割り、色みにこだわってみました。映像とゲームの違いを感じつつ、非常に楽しく勉強させていただきました。ムービーのイメージを引きずりつつゲームをプレイしていただければ幸いです。そしてサイレントヒルブランドの持つ広がり、映画化、コミック、一龍斎貞水先生とのコラボ/響談、着ぐるみロビーなど、1つのパッケージとしてサイレントヒルを楽しんでいただければと思います。


*「帰服の剣」:柄の部分が不思議な形をした剣。その存在が5本しか確認されていない。完全にダウンしたゴーストにこの剣を刺すことで封印しその場にとどめておく事ができる。抜くと、ゴーストは再び動き出す。



---- チーフデザイナー 坪山優史 ----


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